■事業の概要
◆NPO法人「名古屋オレンジの会」
2001年に原型となる「ゼロからの会なごや」を設立。2002年に、NPO法人「名古屋オレンジの会」として認証を受ける。本人へのカウンセリングや家族へのアドバイス、講演会などを行っている。また、小規模作業スペースを設け、ニートやひきこもりが社会復帰(自活)できるように支援。次世代を担う若者が、互いの違いを求め合いながら育つことのできる場を提供している。


鈴木さんはどのような学生時代を過ごしてきたのですか?

私はね、中学3年生で登校拒否になったの。中学2年生の頃から兆しはあって、まず、なんとなく人前で食事ができなくなってしまった。今でいう摂食障害ね。それから、なんとなく保健室登校をするようになって、そのうち学校に行けなくなった。学校では優等生、家族には学校の友達と上手くやっているように演じて…そんな状況を続けることに心身が限界を感じたのね。もともと家庭環境も変わっていたから、家には家族以外にも親戚や赤の他人まで住んでいたの。食事はいつも一人か、家業を手伝う従業員と一緒。一家団らんもない家庭だった。だから私は、学校にも家庭にも自分の居場所がなかったの。「何でこんなに悲惨な環境に生まれたんだろう」…生きていく意味を探して、ひたすら本を読んで映画を観たけれど、答えは見つからなかった。生きる意味がわからない状況で、それでも生きなければならない…私にとっては苦痛以外の何ものでもなかった。だから、死ぬことばかり考えていた。いつ死のうか、どうやって死のうか、どこで死のうか…毎日そんなことばかり考えていたのよ。信じられないくらい暗い学生時代でしょう(笑)

今、こうして生きているのはなぜですか?何か転機があったのですか?

15歳の時に死のうとしたの、本当に。けれど死ねなかった。1回目もだめで、2回目もだめ…その時に「死ねないなら、自分の人生を生きて行こう!」と思ったの。中学卒業後は、美術が好きだったから高校の美術科に進学したけれど、授業はほとんど出席しなかった。図書館で本を読んだり、おもしろい先輩がいると聞けば会いに行ったり。結局、つまらなくなって退学したの。その後は、17歳で家を出て北海道に住んで、18歳で地下演劇に興味を抱いて東京へ。お金もないし、宿もない。そんな状態で劇団の門を叩いて「ここに住まわしてください!何でもお手伝いします!!」とお願いして、住み込みで演劇の勉強をするようになったの。けれど私、実はすごくシャイでね。だから演劇の舞台なんてとてもじゃないけど立てなかった(笑)だから結局、演劇でもだめだった。ところが、19歳の時にはハンサムな人と出会って結婚、20歳で出産を経験して、21歳で夫に付き添ってパリへ。22歳で帰国して離婚…本当、挫折続きの人生よね。

ひきこもりやニートの子を救う仕事を始めるきっかけは何だったのですか?

不登校の子の増加や、いじめによる自殺がマスコミに取り立たされ、社会が「不登校」というものに対して注目し始めたのが1990年だったの。その頃、不登校の人のための居場所作りをしていた女性にたまたま出会ったことがきっかけだった。当時は今のような「ニート」「ひきこもり」なんて言葉もなかったけれど、日本各地では不登校の子を支援するボランティア活動が盛んに行われていた時期。彼女の活動もそのうちのひとつだった。けれど今から5年前に、彼女は理由があってそれが続けられなくなったの。結局その場所は閉じられることになったんだけど、でも不登校の子がいる現実に変わりはない。その場所がなくなってしまったら彼らはどこへ行けばいいのか。そう考えたら、その女性が今までしてきた活動がなくなってしまうのは、すごくもったいないことだと思ったの。それで私は、不登校の子やニート、ひきこもりの人が社会復帰できるような居場所を自分が名古屋に作っていこうと決めた。一度決めたら行動するのは早いから、「やる!」と決断してから、9日後にはもう活動を始めていたの。「こんなに行動が早い人は初めて!」と事務所を借りた施設の人にも驚かれたくらい(笑)

ニートやひきこもり、不登校…
どうして彼らは自分の殻にこもってしまうのですか?

一度でも挫折を経験して「普通」から道を外れてしまうと、もとに戻るのが難しいの。特に今のような勝ち組・負け組がはっきり分かれる社会ではね。世間のいう「普通」ってすごくレベルが高いことなのよ。パリから帰ってきて、シングルマザーになった時に私はそれを実感したの。子どもが病気になっても人からお金を借りなければ病院に行けない、冷蔵庫が壊れても社会福祉協議会へ行ってお金を借りなければ直せない。劇団でも上手くやれず、結婚にも失敗して、すごく貧しい生活をしていて…普通の生活をしている普通の人たちに助けられてやっと生活できていた。私は「普通以下の人間」だったのよ。だから私は「普通の生活をしよう!」と夢を持たなくなったの。それまで私は自分なりの夢を持っていて、何かになれるんだと思っていた。「普通な自分」ではなく何か別の自分に。だけど「普通以下の自分」にそれはできないじゃない。夢を持たないというのは普通に生きることなの。夢を持つことは贅沢なことなのよ。それくらい「普通」というのはレベルが高いの。だから一度でもその「普通」から道を外れてしまうと、元に戻るのはすごく難しい。ニートやひきこもり、不登校の子は一度「挫折」してその「普通」から足を踏み外してしまったから、なかなか社会に戻れない。普通以下の自分…そこから生まれる劣等感や孤独感を抱えて、心に殻を作って閉じこもってしまう。心を閉ざすってね、自分の居場所を感じられないし、すごく孤独なのよ。私は小さな頃からそうして生きてきたからその気持ちが痛いほど分かる。だから、私は今こうして彼らのそばにいて、彼らと共に生きているの。

今、まさに孤独と戦っている不登校の子へメッセージをお願いします。

人生はいつでもスタートラインなんだということを知ってほしい。挫折を経験して、もう普通になんて戻れないと思っているかも知れないけれど、人生はいつだってやり直せるの。YESかNOなのよ。やってきたもの、出会ったことに対して自分がどう答えるのかが大切なの。興味があればYES、ないのならNO。YESと答えたら出会いやチャンスは自分のものになるし、NOと答えてもまた次の機会がある。だから、もっと今を大切にして、今ある環境や人との出会いをもっと大切にして生きなきゃ。いっぱい悩んだこと、悲しんだこと、怒ったことはすべて自分の財産になっていくから。私の中にはね、学校に行かなかった15歳の自分がまだ生きているの。だけどこの仕事を始めて、やっとネガティブな過去をポジティブに捉えられるようになった。殻に閉じこもっていた過去の自分がいるから、ニートやひきこもりの子の孤独な気持ち、求めていることが分かる。だから、過去の私のように心を閉ざしている人の力になれればと思い、今の活動をしているの。過去の挫折が将来活きることもあるのよ。だから、殻に閉じこもっていないで、ゆっくりとできることから新しい人生を始めてみて。まずは、たった一人の安心して一緒にいられる人と出会うことからでもいいから。



■プロフィール

NPO法人「名古屋オレンジの会」代表理事
鈴木美登里さん

1955年愛知県生まれ。親戚や赤の他人までが一緒になって生活する複雑な家庭環境で育ち、孤独な幼少時代を過ごす。学生時代には登校拒否、退学、その後は離婚などさまざまな挫折を経験。それらの経験を生かし、45歳で「名古屋オレンジの会」を設立。ニートやひきこもりの社会復帰、また対応に困惑している家族を支援している。カウンセリングを通じて、何人ものニートやひきこもりを社会復帰させてきた。

▼0歳
名古屋市生まれ。親戚や他人が一緒に住む複雑な家で育つ
▼14歳
イジメや家庭問題、複数の要因が重なり不登校になる
▼16歳
1日1冊、いちばん読書をしていた高校時代。「なんで私がこの悲惨な状況下に生まれてこなければならなかったのか」その答えを探すかのように、哲学や宗教、心理学の本ばかり読んでいた。また、高校中退後は家を出て、知人を頼りながら京都や北海道にて暮らす
▼19歳
結婚、翌年出産。夫の勉強に付き添い、パリへ
▼22歳
離婚、帰国。その後、再婚。また、NPOのボランティアやパートとして働く
▼現在
NPO法人「名古屋オレンジの会」代表理事、今年で5年目

■インタビューの感想

大角清隆くん
東海高校1年

あんなにつらい事を経験してきた人がいるとは驚きました。それなのに今ではこんな活動をしているのはすごいと思います。ひきこもりやニートの人たちへの社会復帰支援はとても大変だと思います。しかしそんな人たちが少しずつ変わっていく話を聞いただけでどこか嬉しくなるのは気のせいでしょうか?これからの世の中ではひきこもりやニートはもっと増えると思います。世間では勝ち組や負け組が盛んに謳われていますが、果たしてそれでいいのでしょうか?共に助け合いながら生きるということがどれほど大切かということを改めて学んだ気がします。

酒井貴士くん
東山工業高校1年

ひきこもりの人や何らかの障害を負った人を社会に復帰させるための活動、その中で起きた事例や過去の話をしてくれましたが、それはとても考えさせられるものでした。特に大学受験や就職試験の失敗からそういうことになったという話も聞かせていただき、そういう人が苦労して社会にまた戻ろうとしていくのはどんな気持ちなのか。どれだけのプレッシャーなのか。到底想像できるものではありませんでした。まだ考えもしなかった挫折。それを考え始めるような対談でした。

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中高生のための「社会起業家ナビ」は、2005年度「JT青少年育成に関するNPO助成事業」の支援を受け、NPO法人アスクネットが制作しました。