サマーセミナー
実行委員会事務局長
  宮下 重和
 (南山高校教諭)

聞き手:安井 章員(ASKネット)

    

−−: まずは先生のプロフィールからお聞きしたいと思います。
教員になられて何年目ですか?
宮下: 13年目だと思います。 サマーセミナーが今年で11回目ですから、就職して間もない、教師とは学校とはどん なものなのかというのがあまりわかっていないころに、ちょうどサマーセミナーが産 声を上げたという感じですね。
−−: 第1回から参加しているわけですか?
宮下: サマセミは一番最初は社会科の教師だけが集まって行なったんですよ。 やる前は夏休みの暑いときに生徒が来るわけがないと思われていたんですが、実際ふ たを開けてみたらかなり生徒が集まりました。 その生徒たちがまた目が生き生きとしていて、一生懸命学ぶんですよ。 われわれのほうにも、生徒は学校とか授業はつまらないものだと思っているという先 入観があったんですが、ひょっとしたら生徒が本当に学びたいことを学び教師が教え たいことを教えれば、生き生きとした授業が生まれるのではないか、そう思わせるき っかけになりました。 そして、社会科でできたことなら他の教科でもできるはずだということで、翌年から 全教科に拡大してやろうという話になったんです。 それが第1回サマーセミナーです。
−−: なるほど、第0回があったわけですね。 先生はどういうふうにサマセミに関わっていらっしゃったんですか?
宮下:  第1回にはお手伝いとして中京の理科の先生の授業についていたんです。 それは物理の授業だったんですが、教室の中でやるんじゃなくてグランドに出てボー ルを投げてそれがどう動くか、というようなことをやりました。 そのとき青空のもとで、生徒がのびのびとやっているのを見て、「ぜひ自分もやって みたい」と思いました。
 そこで第2回に「ザ・なまもの」と題した解剖の授業をやりました。 豚の内臓を持ってきて実際に生徒に触ってもらいながら授業をしたのです。 手が出ないかな、と思ったんですが、生徒は「くさい」「汚い」といいながらも触り ながら参加してくれました。
 日ごろの授業では、教科書を使い板書をノートにとらせるような受身的な一斉授業 をやってるんです。 生徒がなにかしゃべると「静かにしなさい」と注意するような管理的なことをやって いる。
 サマセミの授業では準備に時間と手間がかかるんですよ。 でも、ほんとの理科の授業というのはこういうものだと思います。 ナマの教材を五感に感じる、五感に訴えかけるというのがほんとの意味での授業です よ。
 そういう授業でやった内容は生徒も忘れませんしね。 今日の授業でも肝臓についてやったんですが、サマセミで私の講座に参加した生徒は 覚えていましたからね。 受験対策用にただ覚えるだけの授業では、しばらくたつと忘れてしまいます。
−−: なるほど。
宮下:  それに、受身的な一斉授業をやっていると私たちも教える喜びをだんだんなく していきますからね。 だいたい10年も教師をしていれば授業なんてそこできてしまうんですよ。 準備なんかしていなくてもぱっと教科書を開いて、生徒と適当にキャッチボールをし ながら、脱線もしつつ、授業時間内にひととおり目標のところまでできるということ ができるようになるんです。 でも、それは単なる慣れであって、授業の中でときおりはっとするような経験があっ たりというような緊張感は薄れていってしまいます。
 サマセミとあと冬に授業改革フェスティバルというのがあるんですが、その準備を していると思い出すんですよ。
−−: 教師としての原点みたいなものをですね。
宮下: そうです。 教材の大切さやいかに参加させるか、その評価といったものは、一斉授業のときでは なかなか省みることができないですからね。 サマセミでは毎年新しい発見があります。 それが自分の中での自信になるんです。 生徒たちの生き生きとした表情や目の輝きを見ていると教師をやっていてよかったと 思えるんですよね。 そういう授業をする醍醐味を味わわせてくれる楽しさが、サマセミにはありますね。
−−: 今年は授業をされるんですか?
宮下:  今年は実行委員として関わっているのでちょっと講座は出せないですね。 縁の下の力持ちとして、みんなが学ぶいいきっかけになるような、授業をしたことが 喜びになるようなサマセミを作っていきたいと思います。
 思うのですが、自分一人で学校の中で殻の中にこもって教材研究をやっているだけ では、いい授業との出会いや生徒、教材との出会いがあったかどうか自信がないんで すよ。 近年「教育の危機」ということが言われます。 学校に生徒を囲ってしまう、教師も心を閉ざしてしまうという、教師と生徒や生徒同 士のパイプが切れてどんどん孤になっていってしまう状態では、どんなにいい授業を どんなに工夫してやってもうまく行かないと思うんです。 生徒と教師や生徒同士の人間関係がうまくいっていないと、授業もうまくいかない。 授業自体が少々荒削りであっても、いい関係があって、教室が生徒にとってほっとで きる居場所になっていれば、うまくいくのです。 教師自身が自分の立場や学校の壁を越えて外に出て、他者との関係やお互いの居場所 を作っていく努力をしていかないと、生徒もそれを察知してパイプがつながらない状 態になってしまうんです。 教師自身や学校が外に開かれ、学校どうし・地域と学校・家庭と学校がつながってい くことが授業や子どもたちの教育がうまく行く基盤になっていくと思います。 そういうことなくして授業改革や教育改革はうまく行かないと思っています。
 サマセミは画期的な試みだと思うんですよ。 サマセミを通じた授業改革というものは、ひとつひとつの授業をとりあげて批判して いくものではありません。 授業がうまく行かないのは、学校の構造や教育体制全般における構造的な問題だとと らえて、それに対して現場からのネットワークを広げながら、新しい教育や新しい授 業、新しい学校づくりを目指していく。 そうやってみんなの力でやっていくというところに大きな意味があると思います。
−−: 授業がうまく行くためには「関係」が重要ということでした。 「関係」という観点で見るとサマセミで授業をするということにどういう意味がある のでしょうか?
宮下:  サマセミだと自分の生徒ではないよその子達が来ます。 その子達でもかわいいと思えるんですよ。 自分の生徒たちだけが学力が向上している、自分の学校の教育だけがうまくいってい るという状態。 それでいいのか、といえばちがいますよね。 日本全体、そこまで行かなくても愛知の私学全体の教育がうまくいっているというの がいいと思う。 そういうふうに思えてくるんです。 愛知にはそう思っている先生たちが多いんじゃないかと思いますね。
 また、サマセミは普段の授業での自分の生徒との関係に直接影響を及ぼすわけではな いですよね。 だけど自分が授業に対して前向きに取り組むことができる、ニコニコ顔で授業に行け るエネルギーの元になります。 教師が授業をすることについてつまらないと思っているなら、生徒も教師も不幸です からね。
−−: そろそろ、今年のサマセミについて聞かせてください。
宮下:  やっぱり目玉は山田洋次監督の講演ですね。 監督は教育とか学校を意識した発言をしていらっしゃいますし、作品の中にもそうい うものに対する意識が見えます。 地域の崩壊、関係、居場所ということにも注目していらっしゃるようです。 そういう意味で、監督の話がわれわれの目指す学校と相通づるものがあるのではない かと思っています。 それに関連して吉村さんという三重大の先生にも講座を持っていただきます。 吉村さんは山田監督のシナリオを使った授業や一行詩の授業実践をしてらっしゃる方 で、今回山田監督をお招きしたのにあたって、ぜひ行きたいといってくださって講座 が実現しました。 また、映画「学校」のモデルになった先生で、松崎さんという方がいらっしゃるんで すが、その方にも授業実践や教育経験のお話をしていただきます。 この3人をお招きしたことで、サマセミに「学校」というテーマで一本筋が入ったな という印象がありますね。 生徒もそれに触発されて「学校」に関するシンポジウムを開くことになり、今一生懸 命準備をしています。
 講座で多かったのは自然環境に関するものですね。 「藤前干潟」「海上の森」「河口堰」についてはフィールドワークというかたちで実 際に現地に行ってみるという講座があります。 また、平和がテーマの講座も多いですね。 コソボ問題やガイドライン関係の講座が出ています。 それからボランティア・福祉関係の講座も多いです。 老人介護の問題をとりあげる講座や障害者の方による講座、骨髄バンクをやっている 人の講座などがあります。 その他、受験講座や趣味・スポーツの講座があったり、工作・工芸の講座があったり と内容はさまざまです。 数年続いているシリーズで「なるには講座」がというものがあります。 例えば、「医者になるには」「美容師になるには」というようなテーマで一線級のプ ロを呼んできて話をしてもらうのです。 目標を持っていない生徒が増えています。 世の中にこんなふうに貢献したいとか自分の人生をこういうふうに生きていきたいん だとか、そういう時代とか社会とかとつながりを持った目標のないまま勉強しないと いけないという状況があるのです。 だからそんな勉強に苦痛を感じて挫折してしまうこともよくあることなんですよ。 そこでプロの話を聞くことによって、自分の人生について考えるきっかけともなると いいな、というのが「なるには講座」を続けている想いです。
 

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